昨日まで、温かくてふわふわで柔らかかった身体。それが、今では冷たくて固くて、全く動いてくれません。それでも、この大事な身体を無くしたくありません。けれど、現実問題として、数日中には火葬場へ連れて行かないといけません。そんな時、どうすればいいのでしょうか? そして、大事な大事なその身体を無くしたあと、遺された人間は、一体、どのように過ごせばいいのでしょうか?その答えの一つが、本書です。
作者と夫と、飼い猫ゆずの最後の散歩
1月の温かいある日の午後、作者と夫は、16年間飼っている猫のゆずを、毛布にくるんで自転車の籠に乗せて、家を出ました。
ゆずに優しく話しかけながら、道をゆく作者とその夫。
これから、長い長い散歩が始まります。自宅から火葬場までの、長い長い散歩が。ゆずのたましいは、二日前にその体を離れました。
死に目に立ち会えなかった負い目
作者は、ゆずの死に目に立ち会えませんでした。旅行に行っていたのです。ゆずの最期を看取ったのは、夫でした。
ゆずには、実は病の前兆がありました。甲状腺が活発になりすぎ、体力を消耗する病気です。けれど行きつけの獣医は『長くかかる病気だからね』と、作者にゆず用に毎日飲ませる大量の薬を渡していたので、作者は『先はまだまだ長いんだ』と、そっち方面の覚悟を決めてしまっていたのです。
薬以外、何事もない日々が過ぎていきましたが、ゆずは作者の旅行前に風邪を引いてしまい、ゆずの風邪がまだ治りきらないまま、作者は旅行に行くことになりました。ゆずの状態が気になって、旅行先から毎日電話をする作者。最初は大丈夫でしたが、旅行の後半になるにつれてゆずの状態が悪くなってきます。そして、タクシーと飛行機を乗り継いで、作者が自宅に帰りついたその瞬間。出迎えた夫の、洗ったような目を見て、作者はすべてを悟りました。
いやだいやだいやだいやだ、うそだ、ゆず、いやだ、と、その場で作者は泣き崩れます。そして『やっちまった』との思いに苛まれます。この世でたった一匹の猫を、寂しい思いのまま逝かせてしまったと。
火葬場に行くまで
作者よりは現実を受け入れられている夫が、火葬場へ行かなければと提案をします。翌日の午後に、ゆずを火葬場に連れて行く事になりました。
もうすぐなくなってしまう身体。作者と夫はゆずの身体の各所の毛を少しずつ切り取り、ジップロックで保存します。写真も山ほど取ります。身体のサイズまで測りだします。
けれど時間は迫ってきます。火葬場へ行く時間になってしまいました。自宅から二時間かけて、夫婦はゆずを連れて火葬場まで歩くことにします。
火葬場、そして遺された者の時間
火葬場では、ゆずの骨を灰まで全て骨壷に詰めてもらいました。そして再び二時間かけて、自宅へ戻る作者と夫。骨壷をゆずの寝床において、これまで出迎えてくれたゆずがもういない事実を、改めて自覚します。
その日から、ゆずがいない日々が始まります。最初は毛の始末やトイレの始末、洗濯物などに追われますが、作者は満足に食事が喉を通りません。
『食べ物を口いっぱいにほおばるのは 怖いというか許されないことのような感じがしていた ゆずが食べられなかったのに』(作中より)
けれど、ゆずが好きだったサバを口にして、突然、作者は食べ物をどうやって食べていけばいいかわかった気がしました。
『もしゆずに「ごめんね」が伝えられるなら 「おいしいよ」だって伝えることができるんじゃないのか』(作中より)
ちゃんと食べてちゃんと生きよう、ちゃんと思おう。その日から作者の食欲は復活します。
遺された者の選択
1月にゆずが逝って、夏がくる前に、夫婦はギブアップしました。具体的に言うと、子猫を飼い始めました。しかも2匹。悲しみは消えないし、後ろめたさもあるけれど、そこに幸せがパラパラ振りかけられた感じがすると作者は語ります。
『子猫たちがきてやっとおだやかな気持で思い出すことができた ゆずと過ごした日々がどんなに愛しく楽しかったか どんなにたくさんの「ありがとう」を伝えたいか』(作中より)
最後に
ゆずの新盆を最後に、話は終わります。何年も一緒にいた大事なペットを亡くした時、一体どうすればいいのか。その一つの例が本書です。ペットを亡くしたことのあるあなた、今現在ペットを飼っているあなた。箱でティッシュを用意しておく必要がありますが、一度読むことをおすすめします。
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